第一善隣館 宇野孝一さんインタビュー

「ゼンリンカフェ」を運営する第一善隣館の宇野さんにお話をうかがいました。ほんとうはお目にかかって、直接に話をうかがいたいところですが、今回は質問をメールでお送りして、その回答をいただくというかたちでの書面インタビューです。

やはり書き言葉なのですこしかたいかもしれません。読みやすくしようと、そのあたりすこしだけ編集してあります。

いそがしいなか、面倒な質問に丁寧に答えてくださった宇野さんに大感謝です。

その宇野孝一さんって、いったいどんなひとなのでしょうか?

『わたしですか?前職は金沢市役所に勤めていた事務屋ですよ。金沢生まれの金沢育ち。金沢が大好きで、金沢を誇りに思っている、資格もなにもないジジイです。

現職は?と問われると、9年目。社会福祉法人「第一善隣館」の施設長であり、保育所長であり、デイサービスの管理者であり、ゼンリンカフェの店長であり、組織のない寂しい孤独者であります。

事業を通して、まわりにいる専門職のかたがたが「ゼンリンカフェ」を支えてくださっています。わたしは、縁の下で、蜘蛛の巣まみれになっている透明人間のようなものですよ。』

どうです。おもしろそうなかたでしょう?

ぜひ読んでみてください。

「宇野孝一さんインタビュー」

◎「ゼンリンカフェ」のことを、県外のひとたちにもわかるように教えてください。まずは所在地ですが、金沢のどのあたりにありますか。

宇野さん:「ゼンリンカフェ」は、金沢市の旧市街地の南のほう、犀川中流の左岸に位置する「旧野町校下」(旧野町小学校区)のほぼ中央にあります。

◎近くになにか目印になるようなものはありますか。

宇野さん:そうですね、観光で有名なところとして、にし茶屋街や、いわゆる忍者寺として知られている妙立寺が近くにあります。

◎ほかの喫茶店やカフェとはちがう、「ゼンリンカフェ」ならではの特徴を教えてください。

宇野さん:「ゼンリンカフェ」は、当初、地域の高齢者の引き籠もり防止をおもな目的として、わたしども「第一善隣館」が、平成24年にオープンしました。

「ゼンリンカフェ」はくつろぎの場でありながら、同時に障害者就労継続支援事業のなかの施設外就労事業所として、障害のあるかたたちの働く場にもなっています。

また、町家を改修したつくりになっていますので、いわゆる福祉喫茶とはすこしちがう、おしゃれな空間になっています。

◎「ゼンリンカフェ」で取り組んでいるイベントや企画はありますか。

宇野さん:企画やイベントは実に多様に行っています。大きく分けて「認知症関連事業」、「相談事業」、「地域のかたを主体とした事業」があります。

「認知症関連」としては、オレンジカフェとよばれている、認知症カフェが月2回あります。「相談事業」は文字通りの相談カフェとして、社会福祉士や社会保険労務士、行政書士をむかえて、福祉全般の相談を受ける時間を設けています。これも月に2回ほどやります。

また石川県社会福祉士会と共同で、福祉に関する課題や問題についてのセミナーを毎月1回やっています。

そしてみっつめの「地域活動」としては、地域のかたたちが主体となって、趣味を生かした講座をもうけ、参加者といっしょになって創作をする活動をしています。

◎「ゼンリンカフェ」の看板メニューは「たんとカレー」だとききました。お客さんの評判はいかがですか?

宇野さん:「たんとカレー」はすっきりした辛さのカレーで、毎日食べても飽きないと、評判はいいです。また家庭でも手軽に食べられるといって、冷凍パックを買っていかれるかたもたくさんいらっしゃいます。

◎「ゼンリンカフェ」のこれからの展望や、こうしていきたいというものがあればおきかせください。また「ゼンリンカフェ」ならではのチャームポイントやアピールがあれば、それもお願いします。

宇野さん:「ゼンリンカフェ」は、金沢の古い民家を改修したコミュニティカフェです。靴を脱いで畳の部屋でくつろいでいただけます。1階は椅子席で、2階は座卓になっています。なんといっても畳ですから、お年寄りにはやさしいですし、こどもたちにも安心です。

展望としましては、いま現在も高齢者関係の事業は充実しているのですが、今後は子育てや共生型の事業を充実させていきたいと考えています。また、趣味を楽しむ催事にも、さらにおおくのかたに利用してもらえるようにしていきたいです。

 

◎善隣館(第一善隣館)についてきかせてください。どんな活動をしているのですか。

宇野さん:善隣館は、まだ社会福祉が脆弱だった昭和の初期、現在の民生委員にあたる方面委員が中心となって、防貧救貧活動の拠点として設立されたセツルメントです。金沢市内19箇所に設立され、現在も11館が活動をしています。

第一善隣館は、野町方面委員だった安藤謙治が、「苦しみ悩んでいる隣人を見たら同情する心を持ちなさい。持ったら即、実践実行しなさい」と昭和9年9月に、県内で最初に創設しました。

当初から託児所、授産所などの社会福祉事業と、講演や講習会などの社会教育事業に取り組みました。敗戦後、公民館制度がつくられ、社会教育事業は公民館が行うことになりました。

現在も「助け合いの心で、近隣の人々と心をかよわせ、支え合い、互いに善き隣人を創る」という善隣思想の具現化を基本理念に、認可保育所と老人デイサービス事業を運営しています。

◎第一善隣館が経営する「ゼンリンカフェ」ですが、福祉と商活動についてうかがわせてください。

カフェという場所や商いがあることで、障がいのあるかたと社会を結びつける橋渡しをされていると思いますが、そのあたりで感じることや問題点、課題などがあれば、教えてください。

宇野さん:「ゼンリンカフェ」は、善隣思想を具現化する地域福祉活動の場として、地域のかたが「ちょっと寄って寛ぐ場」として開設したコミュニティカフェです。

授産施設の製品の展示販売や福祉情報の提供、福祉相談などとともに、障害者の就労継続支援事業として、喫茶店を運営しています。障害のあるかたが、イベント参加者やお店のお客さんと交流することは、善隣思想やソーシャルインクルージョン(社会的共生理念)に合致すると考えています。

したがって、喫茶店事業は商活動とは考えていません。もっとも、赤字体質であることが、今後の事業継続を困難にしていることは事実です。お客さんを増やしていく方策を「ふれあい工房たんと」とともに真剣に検討する必要があると思っています。

またいらっしゃるお客さんのなかには、障害のあるかたの接客に違和感や嫌悪感を感じることもあるのです。そのあたりをどうお客様に知っていただくか、すぐわかるように大きく表示するのがいいか、メニューに小さく表示するのがいいかなど、抱えている悩みごとはいろいろとあります。

◎「たんとカレー」「剣崎なんばスパイス」など、独自商品を持つ福祉事業所「ふれあい工房たんと」について、宇野さんはどのように感じておられますか。またどのようなおつきあいがあるのでしょうか。

宇野さん:ゼンリンカフェを構想した段階で、障害のあるかたたちの就労訓練をしないかということで、「ふれあい工房たんと」を紹介いただき、施設外就労事業にともに取り組むことになったのが、その出会いです。

理事長の酒井さんは、忌憚なく接することのできる人物です。元シェフで、料理の腕も信頼できるうえ、豊かな人脈も持っています。酒井さんはゼンリンカフェを支える重要なかただと思っています。

現在、「たんと」のA型事業所からは「たんとカレー」や「ミートソース」などを、B型からは「水ようかん」などのスイーツを購入し、ゼンリンカフェで提供しています。

「ふれあい工房たんと」なくしては、ゼンリンカフェはありえないのです。

◎寛容な社会、多様性を認める社会を実現していくために、福祉ができることは大きいと思います。酒井さんの口癖ではないのですが、「攻めの福祉」、これは積極的に社会にコミットメントしていく福祉ということだと理解していますが、その実現について、具体的にどのような道のりがあるでしょうか。

宇野さん:福祉事業はたいへん広い範囲におよびます。昨今では、措置事業であったものが契約事業となったり、社会福祉法人やNPOへの社会的責務も強く求められています。

酒井さんのいう「攻めの福祉」とは、こんなときであるからこそ、いままでのように殻に閉じこもるのではなく、新たな形の福祉に挑戦できるんだということなのだと思います。

共生型といわれる事業や高齢者の「孤」の支援事業など、既成の福祉の形にとどまらず、地域コミュニティと関わりをもち、共同していく姿勢が大切だと、私自身も考えています。

◎超高齢化社会、格差社会がやってきています。地方自治においても人口、産業の大都市集中はさらにすすんでいくことでしょう。福祉にかかる負荷や期待はこれまで以上に大きくなるのは確実です。向こう10年、20年を見据えた福祉のありようについて、宇野さんの思うところをお聞かせください。

宇野さん:人口減少、超高齢化、そして限界の問題。これからの福祉活動を思うに、与えられることだけを期待する福祉では、それこそ限界です。尽くし尽くされる、双方向の福祉が大切のように思います。

「根性良し(こんじょよし)」だけでは、やがて燃え尽きてしまうのでしょうか?それでも「根性良し」でいたいものです。

ディールばかり、自国ファーストばかりがまかりとおる昨今の経済至上主義では、福祉は萎えていきます。

福祉事業、福祉職の社会的評価を向上させること、福祉活動の財源を豊かにすることが必要だと考えます。そのためには、嘘のない「高福祉、高負担」の施策を、切にのぞみます。

追記:このインタビューは質問をメールにして送り、答えてもらうという、いわば書面インタビューのかたちで行われました。

忙しいなか、丁寧に答えてくれた宇野さんに、心から感謝しています。次回はぜひ直接お会いしてさらなる話が聞ければと思っています。

ありがとうございました。